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気がついたら寝ていたみたい。
ムカデの変なテンションについていけなくて、疲れた。
ピュアなやつがなんで毒吐くのよ。ホント勘弁して欲しい。
……変な夢見ちゃった。
苦しくて、苦しくて、目が覚めた。
――ヤな夢。
どこかへ出かける支度をしていた。
桃色のジャンパースカート、リボンつきフリルケープ、ボルドーの薔薇つきミニハット。
髪をコテで巻いて、昔は避けていたチークもはたいた。
おとぎ話から飛び出て来たヒロインみたいになれるように。
なのに。
姿見を見たら、そこに居たのはまったく別人だった。
腰で切り揃えた黒いストレートの髪、頬に影を落とす長いまつげ。
幾重にもレースを重ねた黒いドレス、白いカラミドビー素材のブラウス。
黒薔薇つきヘッドドレス。血痕の滲むフリルタイ。
左腕には、血糊のついた包帯。
――昔の私。
「何を勘違いしているの?」
鏡の中の黒い影が、少し目を細めて言った。
「あの絵の雰囲気を追ったって、貴女はお母様には近づけない」
あの絵……天使の姿をして振り返る、お母さんの絵。
私が求めて求めて仕方ない、お母さんの優しい面影。
甘い雰囲気。
お母様の愛を疑い、
お母様を裏切って、
お母様のすべてを消し去ろうとした癖に。
否定しようと口を開いたのに、言葉がどうしても出てこなかった。
言葉どころか、空気の代わりに熱い赤が吐き出されてきた。
違う。私は、違う。違うのに!!!
世界が暗く染まっていく。
喋ろうとすればするほど、口の中が熱くなる。
鉄の味と錆びた臭いが広がる。
血が吐き出されるたび、喉が焼けていく。
一枚一枚喉の皮が剥がれてくるように、
痛みが嗤いながら私の想いを焦がして殺していく。
鏡の中の黒い影は、口元だけに微笑みを湛えると、
そこから紅いドロドロになって溶けて消えた。
裏切り者。
大嘘つき。
母親殺し。
お前のような娘がお母様に愛されるわけない。
お前のような娘がどんなに頑張ったって、お母様に会えるわけない。
愚かな小娘。今更どんなに手を尽くしたって、もう手遅れなのに。
そこだけ抜けたように銀色に光る姿見から
紅く染まった唇の雰囲気とクスクス笑う声を感じる。
まるで太い杭が胸に刺すように……
苦しくて、苦しくて、目が覚めた。
目が覚めたら、胸の上で黒猫が寝ていた。
――この猫。いつか殺すわ。
ムカデの変なテンションについていけなくて、疲れた。
ピュアなやつがなんで毒吐くのよ。ホント勘弁して欲しい。
……変な夢見ちゃった。
苦しくて、苦しくて、目が覚めた。
――ヤな夢。
どこかへ出かける支度をしていた。
桃色のジャンパースカート、リボンつきフリルケープ、ボルドーの薔薇つきミニハット。
髪をコテで巻いて、昔は避けていたチークもはたいた。
おとぎ話から飛び出て来たヒロインみたいになれるように。
なのに。
姿見を見たら、そこに居たのはまったく別人だった。
腰で切り揃えた黒いストレートの髪、頬に影を落とす長いまつげ。
幾重にもレースを重ねた黒いドレス、白いカラミドビー素材のブラウス。
黒薔薇つきヘッドドレス。血痕の滲むフリルタイ。
左腕には、血糊のついた包帯。
――昔の私。
「何を勘違いしているの?」
鏡の中の黒い影が、少し目を細めて言った。
「あの絵の雰囲気を追ったって、貴女はお母様には近づけない」
あの絵……天使の姿をして振り返る、お母さんの絵。
私が求めて求めて仕方ない、お母さんの優しい面影。
甘い雰囲気。
お母様の愛を疑い、
お母様を裏切って、
お母様のすべてを消し去ろうとした癖に。
否定しようと口を開いたのに、言葉がどうしても出てこなかった。
言葉どころか、空気の代わりに熱い赤が吐き出されてきた。
違う。私は、違う。違うのに!!!
世界が暗く染まっていく。
喋ろうとすればするほど、口の中が熱くなる。
鉄の味と錆びた臭いが広がる。
血が吐き出されるたび、喉が焼けていく。
一枚一枚喉の皮が剥がれてくるように、
痛みが嗤いながら私の想いを焦がして殺していく。
鏡の中の黒い影は、口元だけに微笑みを湛えると、
そこから紅いドロドロになって溶けて消えた。
裏切り者。
大嘘つき。
母親殺し。
お前のような娘がお母様に愛されるわけない。
お前のような娘がどんなに頑張ったって、お母様に会えるわけない。
愚かな小娘。今更どんなに手を尽くしたって、もう手遅れなのに。
そこだけ抜けたように銀色に光る姿見から
紅く染まった唇の雰囲気とクスクス笑う声を感じる。
まるで太い杭が胸に刺すように……
苦しくて、苦しくて、目が覚めた。
目が覚めたら、胸の上で黒猫が寝ていた。
――この猫。いつか殺すわ。
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