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気がつくと、霧にかすむ森の中に居た。
ほの白く沈む世界の中、私は低い木立の影に隠れていた。
この景色、どこかで見たことがあるような……。
――遠くから、かすかに声が聞こえる。私は耳を澄ました。
「……ちゃん、……ご飯……」
よく聴き取れない。優しくて、どこか懐かしい声。
私はどうして隠れているんだろう。
猫ひろしはどこへ行ったの? まったく、手のかかる役立たず。
枝を少し掻き分けて、声のする方を伺う。
「はーいっ」
今度ははっきり聴こえた。明るくてよく通る声。一点の曇りも無い声。
――ああ、思い出した。これは昨日見た夢によく似ているんだ。
少しずつ、霧が晴れてきた。
野営地に、ふたつの人影が見える。私は目を凝らした。
二人の間にあるのは、やっぱりお鍋みたいだった。
風向きが変わって、湯気がこちらに向かってたなびいた。
お腹が鳴るのを必死に堪えた。そういえば、最近パンくずを齧るだけの日が多かった。
でも、我慢……。
もう少しよく見ようと思った瞬間、昨日と全く同じように、木立が揺れて音を立てた。
こちらに背中を向けていた女の人が振り返る。
柔らかな栗色の髪、幸せそうな丸顔。
「どうしたの? ……ちゃん」
「……ううん、何でもない」
絵の中の姿以外はおぼろげにしか記憶に残っていない人物そのものの姿が、そこにはあった。
「ごめんごめん。ほら、フェティちゃん。ご飯冷めちゃうよ。食べよ♪」
フェティ…キルリアくんが言っていた名前だ。そう、フェティ=ラルグ。
赤い突撃娘。突撃オバカで絶叫娘だって。よく覚えてる。
感心している場合じゃないけど、本当に真っ赤な髪なのね。
いただきまーすという二人の声に、ついにお腹が鳴ってしまった。
そんなに大きな音じゃなかったはずなのに、栗色の髪の女性が首を傾げた。
「……ごめん、やっぱりちょっと見てくるね。冷めちゃうから食べてて」
「みあんちゃん?」
草を踏む足音と共に少しずつ近づいてくるにつれ、顔がはっきりと見えてくる。
間違いない。捜していた、私の……
私は弓矢に手をかけた。恐らく、チャンスは一度だけ。
うまく矢をつがえられずにもたもたしているうちに、
乳白色の帳が私の視界を遮って、そのまま現実世界へと引き戻した。
「……おはよ、猫ひろし。よく寝た?」
明らかに座ったままの目で睨みつけながら、私は傍らで丸くなっている黒猫に声をかけた。
嫌な夢見ちゃったな。
夢の続き、明日も見るのかな。
「ホント、見た目はお母さんそのままなのね」
猫を撫でながら、ぽつりと呟いた。
猫ひろしは気持ち良さそうに目を細めたまま、私のこぼした言葉をガン無視した。
いい身分だこと。
別に良いのよ、独り言なんですから。ふんだ。
夢の続きでは、なんとしても射なくては。
あんな、お母さんの外見をした化物の手料理に惑わされちゃ駄目。
そして、それが……あの人を射られる夢が、正夢になれば良いのに。
そうすれば私の目的は達せられるのだから。
偽者の“みあん”を殺して、お母さんを取り戻さなくちゃ。
ほの白く沈む世界の中、私は低い木立の影に隠れていた。
この景色、どこかで見たことがあるような……。
――遠くから、かすかに声が聞こえる。私は耳を澄ました。
「……ちゃん、……ご飯……」
よく聴き取れない。優しくて、どこか懐かしい声。
私はどうして隠れているんだろう。
猫ひろしはどこへ行ったの? まったく、手のかかる役立たず。
枝を少し掻き分けて、声のする方を伺う。
「はーいっ」
今度ははっきり聴こえた。明るくてよく通る声。一点の曇りも無い声。
――ああ、思い出した。これは昨日見た夢によく似ているんだ。
少しずつ、霧が晴れてきた。
野営地に、ふたつの人影が見える。私は目を凝らした。
二人の間にあるのは、やっぱりお鍋みたいだった。
風向きが変わって、湯気がこちらに向かってたなびいた。
お腹が鳴るのを必死に堪えた。そういえば、最近パンくずを齧るだけの日が多かった。
でも、我慢……。
もう少しよく見ようと思った瞬間、昨日と全く同じように、木立が揺れて音を立てた。
こちらに背中を向けていた女の人が振り返る。
柔らかな栗色の髪、幸せそうな丸顔。
「どうしたの? ……ちゃん」
「……ううん、何でもない」
絵の中の姿以外はおぼろげにしか記憶に残っていない人物そのものの姿が、そこにはあった。
「ごめんごめん。ほら、フェティちゃん。ご飯冷めちゃうよ。食べよ♪」
フェティ…キルリアくんが言っていた名前だ。そう、フェティ=ラルグ。
赤い突撃娘。突撃オバカで絶叫娘だって。よく覚えてる。
感心している場合じゃないけど、本当に真っ赤な髪なのね。
いただきまーすという二人の声に、ついにお腹が鳴ってしまった。
そんなに大きな音じゃなかったはずなのに、栗色の髪の女性が首を傾げた。
「……ごめん、やっぱりちょっと見てくるね。冷めちゃうから食べてて」
「みあんちゃん?」
草を踏む足音と共に少しずつ近づいてくるにつれ、顔がはっきりと見えてくる。
間違いない。捜していた、私の……
私は弓矢に手をかけた。恐らく、チャンスは一度だけ。
うまく矢をつがえられずにもたもたしているうちに、
乳白色の帳が私の視界を遮って、そのまま現実世界へと引き戻した。
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「……おはよ、猫ひろし。よく寝た?」
明らかに座ったままの目で睨みつけながら、私は傍らで丸くなっている黒猫に声をかけた。
嫌な夢見ちゃったな。
夢の続き、明日も見るのかな。
「ホント、見た目はお母さんそのままなのね」
猫を撫でながら、ぽつりと呟いた。
猫ひろしは気持ち良さそうに目を細めたまま、私のこぼした言葉をガン無視した。
いい身分だこと。
別に良いのよ、独り言なんですから。ふんだ。
夢の続きでは、なんとしても射なくては。
あんな、お母さんの外見をした化物の手料理に惑わされちゃ駄目。
そして、それが……あの人を射られる夢が、正夢になれば良いのに。
そうすれば私の目的は達せられるのだから。
偽者の“みあん”を殺して、お母さんを取り戻さなくちゃ。
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